2016.1/16「白鯨との闘い」

 

白鯨との闘い (集英社文庫)

白鯨との闘い (集英社文庫)

 

 

 

復讐する海―捕鯨船エセックス号の悲劇

復讐する海―捕鯨船エセックス号の悲劇

 

 

邦題がダサい、「IN THE HEART OF THE SEA」の方が、この映画の本質を

よく表していると思える。

3DCGの物理流体シミュレーションで描かれた嵐に荒れ狂う海や、海の中を

縦横に泳ぐマッコウクジラの群れが自然の力の大きさを非常な説得力で描いて

いる。

その様な舞台装置のおかげで、対立する船長と一等航海士の人物造形が立体的に

描きだせている、自分の力が及ばないものに挑むことで、人物の性格が変化して

いく様子が、僕にとっても我が事の様に思えるほど没入できた。

極限状態で生き残るために行われた、残酷な行為が人を深い部分で傷つけ、

人間を摩滅させてしまう描写は、現代の戦争や大災害の現場にも通じたものだろう

人間の心のケアの仕方をなおざりにしたまま、特に戦争の現場に人々を追いやることを

自国の政府に許してはいけない。映画の内容からそんなことまで思考を飛躍させる力の

ある作品だ。

小説「白鯨」の作者、メルヴィルが取材として、事件の最後の生き残りの船員に話を

聞きに行く部分から物語は始まる、エイハブ船長やスターバックス航海士の人物造形

が実在の人物の様々な部分を組み合わせていたことが判るところが面白い。

船長より航海士の方が、クジラに対して執着が強く描かれていたり、後半それが船長の

方が強くなっていく様子や、小説には描かれなかった部分がなぜあったのかが種明かし

される部分に心を動かされた。